大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)3859号 判決 1988年11月17日
原告
北田茂
ほか一名
被告
水元浩則
ほか一名
主文
1 被告らは各自原告北田茂に対し、金九七万〇一〇七円及び内金八八万〇一〇七円に対する昭和六一年五月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告北田茂のその余の各請求および原告北田正枝の各請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、原告北田茂と被告らとの間に生じたものはこれを五分し、その四を同原告の、その余を被告らの負担とし、原告北田正枝と被告らとの間に生じたものは同原告の負担とする。
4 この判決は、原告北田茂勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自、原告北田茂に対し金五〇三万四七八二円及び内金四五三万四七八二円に対する昭和六一年五月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告北田正枝に対し金一七二万一一六一円及び内金一五二万一一六一円に対する昭和六〇年五月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 事故の発生
被告水元は、昭和六〇年五月一三日午前一一時ころ、普通乗用自動車(泉五八は六九五一号、以下「水元車」という。)を運転して大阪府茨木市中穂積一丁目七番五六号被告会社ガソリンスタンド内を進行中、前方に停止していた原告北田茂が運転し、原告北田正枝が同乗する普通貨物自動車(大阪四〇の一二五〇号、以下「北田車」という。)に自車と追突させた(以下「本件事故」という。)。
2 責任
被告水元は、前記場所において自車を進行させようとしたのであるから、前方を注視しつつ自車を進行させ、前方に停止している北田車に自車と追突させることを未然に防止すべき注意義務があつたものである。しかるに、同被告は、これを怠り、前方不注視のまま漫然と自車を進行させた過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故によつて生じた後記損害を賠償する責任がある。
また、被告水元は、被告会社の従業員で、その業務を執行中に右過失により本件事故を発生させたものであるから、被告会社は、民法七一五条一項に基づき、本件事故によつて生じた後記障害を賠償する責任がある。
3 原告らの受傷、治療経過、後遺障害
原告北田茂は、本件事故により外傷性頸椎症の傷害を受け、昭和六〇年五月一三日から同月二八日まで吉岡外科に、同月二九日から昭和六一年三月二九日まで博愛茨木病院に通院して治療を受けた。しかし、同原告の右傷害は、結局完治せず、昭和六一年三月二九日、頸部痛があり、旁頸椎筋の圧痛、レントゲン所見上頸椎の不安定(第五、第六頸椎間の辷り症、後屈による第四・第五頸椎間及び第五・第六頸椎間の軽度の辷り)が認められるといつた後遺障害を残存させてその症状が固定するに至つた。同原告は、右後遺障害につき自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」)という。)の後遺障害等級認定において第一四級一〇号に該当するものとされたものであり、同原告の右後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下「等級表」という。)第一四級一〇号(「局部に神経症状を残すもの」)に該当する。
また、原告北田正枝は、本件事故により外傷性頸椎症、腰部捻挫の傷害を受け、昭和六〇年五月一三日から同月二七日まで(通院実日数一二日)吉岡外科に、同月二九日から昭和六一年七月一〇日まで博愛茨木病院に入通院(昭和六〇年六月一日から同年七月一八日まで四八日間入院、通院実日数二二五日)して治療を受けた。しかし、同原告の右傷害は、結局完治せず、昭和六一年七月一〇日、頸部、頭部痛、頭重感、頸部・肩部の凝り及び倦怠感があり、頸部運動痛(軽度から中等度)、旁頸椎・右大後頭神経圧痛、僧帽筋圧痛・筋緊張・筋硬結、頸椎可動域軽度制限、レントゲン所見上頸椎中間位軽度不整、直線化、生理的前彎消失、第四、第五頸椎の軽度の辷りと角化形成が認められるといつた後遺障害を残存させてその症状が固定するに至つた。同原告は、右後遺障害につき自賠責保険の後遺障害等級認定において第一四級一〇号に該当するものとされたものであり、等級表第一四級一〇号に該当する。
4 損害
(原告北田茂分)
(一) 治療費 金三四万〇八六九円
同原告は、前記博愛茨木病院に対する治療費として金三四万〇八六九円を要した。
(二) 診断書料 金一万六五〇〇円
(三) 事故証明書代 金八〇〇円
(四) 医師・看護婦に対する謝礼 金七万円
(五) 家政婦代 金一五万二二〇〇円
妻である原告北田正枝が前記のとおり入院したので、原告北田茂は、その間家政婦を雇う必要が生じてこれを雇い、その費用として金一五万二二〇〇円を支出した。
(六) 休業損害 金三六六万四三二三円
原告北田茂は、大正一五年八月六日生まれの健康な男子で、原告北田正枝とともに文具販売・写真撮影とDPE取次等の営業を営む傍ら、警備員として勤務し、収入を得ていた。右営業による事故前一年間の平均月間収入は金一三八万〇〇五二円、事故後一〇か月間それは金六八万七六五九円となつたので、一か月当たりの収入減は金六九万二三九三円であり、その利益率は三割であるから、右営業にかかる一か月当りの休業損害は金二三万〇七九七円であり、症状固定の日まで合計二三八万四九〇二円の右営業に関する休業損害を被つた。また、原告北田茂は、本件事故前、警備員として月額一二万三八一五円の収入を得ていたところ、本件事故により休業せざるを得ず、この関係で合計一二七万九四二一円の休業損害を被つた。
(七) 逸失利益 金三九万五九五九円
原告北田茂の後遺障害の内容・程度等は前記のとおりであるから、同原告の後遺障害による労働能力喪失率は五パーセント、労働能力喪失期間は二年間であり、事故前の収益総額は前記のとおり月額三九万五九五九円である。そこで、同原告が右の間に失うことになる収益の総額からホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して後遺障害による逸失利益の症状固定時における現価を算出すると、次の計算式のとおり、金三九万五九五九円となる。
354,612×12×0.05×1.861=395,959
(八) 慰謝料 金一五一万五〇〇〇円
原告北田茂が本件事故により被つた精神的、肉体的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は、金一五一万五〇〇〇円が相当である。
(九) 弁護士費用 金五〇万円
原告北田茂は、本訴の提起及び追行を弁護士である原告ら訴訟代理人に委任し、その費用及び報酬として金五〇万円の支払を約した。
(原告北田正枝分)
(一) 治療費 金一二九万六二三五円
同原告は、前記博愛茨木病院に対する治療費として金一二九万六二三五円を要した。
(二) 診断書料(四通分) 金一万二〇〇〇円
(三) 入院雑費 金六万二四〇〇円
同原告は、前記四八日間の入院中、一日当たり金一三〇〇円、合計六万二四〇〇円の雑費を要した。
(四) 通院交通費 金七万六五〇〇円
同原告は、前記博愛茨木病院への二二五日の通院中バスを利用し、一日当たり金三四〇円、合計七万六五〇〇円の費用を要した。
(五) 休業損害 金一八一万七八七七円
原告北田正枝は、昭和三年一月三日生まれの健康な女子で、カメラ及び文具店を営み、事故前の昭和五九年度の所得は金一六七万九八五九円であつたが、事故年度の昭和六〇年度にはその所得が金一七二万五五五七円となつた。ところが、そのうち金一五〇万円は保険金収入であつたから、本件事故による収入減は年間一四五万四三〇二円であるところ、本件事故により一五か月間休業せざるを得なかつたので、金一八一万七八七七円の休業損害を被つた。
(六) 逸失利益 金二二万九三八四円
原告北田正枝の後遺障害の内容・程度等は前記のとおりであるから、同原告の後遺障害による労働能力喪失率は五パーセント、労働能力喪失期間は三年間であり、事故前の収益額は前記のとおり金一六七万九八五九円である。そこで、同原告が右の間に失うことになる収益の総額からホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して後遺障害による逸失利益の症状固定時における現価を算出すると、次の計算式のとおり、金二二万九三八四円となる。
1,679,859×0.05×2.731=229,384
(七) 慰謝料 金二〇五万五〇〇〇円
原告北田正枝が本件事故により被つた精神的、肉体的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は、金二〇五万五〇〇〇円が相当である。
(八) 弁護士費用 金二〇万円
原告北田正枝は、本訴の提起及び追行を弁護士である原告ら訴訟代理人に委任し、その費用及び報酬として金二〇万円の支払を約した。
5 損害の填補
(原告北田茂分)
原告北田茂は、被告らから金一五二万〇一一五円の損害賠償金の支払を受けた。
(原告北田正枝分)
原告北田正枝は、被告ら及び自賠責保険から金四一二万六六五一円の損害賠償金及び保険金の支払を受けた。
6 結論
よつて、被告らそれぞれに対し、原告北田茂は、4の同原告分の(一)ないし(八)の合計額から5の同原告に対する既払額を控除し、これに4の同原告分(九)の弁護士費用を加えた金五〇三万四七八二円の損害賠償金及び弁護士費用を除く内金四五三万四七八二円に対する不法行為の日ののちである昭和六一年五月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告北田正枝は、4の同原告分の(一)ないし(七)の合計額から5の同原告に対する既払額を控除し、これに4の同原告分(八)の弁護士費用を加えた金一七二万一一六一円の損害賠償金及び弁護士費用を除く内金一五二万一一六一円に対する不法行為の日である昭和六〇年五月一三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1及び2の事実は認める。
2 同3の事実中、原告らが本件事故によりその主張のような傷害を負つたこと、原告らが自賠責保険の後遺障害等級認定においていずれも第一四級一〇号に該当するものとされたことは認めるが、その余の事実は知らない。
3 同4の事実中、各(一)の事実は認めるが、その余の事実は知らない。
4 同5の事実は認める。
三 抗弁(素因の寄与)
原告北田茂は、本件事故当時五八歳で、検査結果及び他覚所見によれば、頸椎に不安定化があり、第五、第六頸椎間に辷り症(ズレ)が存在する。また、原告北田正枝は、本件事故当時五七歳で、検査結果及び他覚所見によれば、頸椎の中間位軽度不整、直線化、生理的前彎消失、第四、第五頸椎間の軽度のズレ、第四、第五頸椎角化形成が存在する。これらの所見は、原告らの経年性の頸椎変化というべきであり、原告らには、このほかに自らの営む営業の不調と負債の増大という事情もあつた。本件事故は、ガソリンスタンドで給油中に発生した軽微なものであり、原告らの症状の発生及び拡大には、右の経年性の変化及び心因的な要素が多大の寄与をしたものであるから、民法七二二条を類推適用して、原告らの損害額を減額すべきである。
四 抗弁に対する認否
否認する。
第三証拠
本件記録中の書証及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。
理由
一 事故の発生及び責任
請求の原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。したがつて、被告水元は、民法七〇九条に基づき、被告会社は、同法七一五条一項に基づき、いずれも本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。
二 原告らの受傷、治療経過、後遺障害
原告北田茂が本件事故により外傷性頸椎症の傷害を受けたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二、第三、第八号証、乙第八号証の一、原告北田茂本人尋問の結果によれば、原告北田茂は、昭和六〇年五月一四日から同月二三日まで(実日数二、三日)吉岡外科に、同月二九日から昭和六一年三月二九日まで(実日数二二七日)博愛茨木病院に通院して治療を受けたこと、同原告は、昭和六一年三月三一日、同病院医師により、同原告には頸部痛があり、旁頸椎筋の圧痛、レントゲン所見上頸椎の不安定(第五、第六頸椎間の辷り症、後屈による第四、第五頸椎間及び第五、第六頸椎間の軽度の辷り)が認められるとして、同月二九日をもつてその症状が固定した旨の後遺障害診断を受けたことが認められ、同原告が右後遺障害につき自賠責保険の後遺障害等級認定において第一四級一〇号に該当するものとされたことは当事者間に争いがない。右の事実によれば、同原告の右傷害は、右診断どおりの後遺障害を残存させて、昭和六一年三月二九日、その症状が固定したものであり、同原告の右後遺障害は、等級表第一四級一〇号(「局部に神経症状を残すもの」)に該当するものと認めるのが相当である。
また、原告北田正枝が本件事故により外傷性頸椎症、腰部捻挫の傷害を受けたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第九号証、乙第三、第五、第六号証、第九号証の一、原告北田正枝本人尋問の結果によれば、原告北田正枝は、昭和六〇年五月一三日から同月二七日まで(実日数一二日)吉岡外科に通院し、同月二九日から昭和六一年七月一〇日まで博愛茨木病院に入通院(昭和六〇年六月一日から同年七月一八日まで四八日間入院、通院実日数二二五日)して治療を受けたこと、同原告は、昭和六一年七月一〇日、同病院医師により、同原告には頸部・頭部痛、頭重感、頸部、肩部の凝り及び倦怠感があり、頸部運動痛(軽度から中等度)、旁頸椎・右大後頭神経の圧痛、僧帽筋の圧痛・筋緊脹・筋硬結、頸椎可動域軽度制限、レントゲン所見上頸椎中間位軽度不整、直線化、生理的前彎消失、第四、第五頸椎の軽度の辷りと角化形成が認められるとして、同日をもつてその症状が固定した旨の後遺障害診断を受けたことが認められ、同原告が右後遺障害につき自賠責保険の後遺障害等級認定において第一四級一〇号に該当するものとされたことは当事者間に争いがない。右の事実によれば、同原告の右傷害は、右診断どおりの後遺障害を残存させて、昭和六一年七月一〇日、その症状が固定したものであり、同原告の右後遺障害は、等級表第一四級一〇号に該当するものと認めるのが相当である。
三 損害
(原告北田茂分)
1 治療費
同原告が前記博愛茨木病院に対する治療費として金三四万〇八六九円を要したことは当事者間に争いがない。
2 診断書料
弁論の全趣旨によれば、同原告は、診断書料として金一万六五〇〇円の支出をしたことが認められるところ、このうち本件事故と相当因果関係のある診断書料は金六〇〇〇円(二通分)と認められる。
3 事故証明書代 金八〇〇円
成立に争いのない甲第一号証及び弁論の全趣旨によれば、同原告は、事故証明書代として金八〇〇円を支出したことが認められる。
4 医師・看護婦に対する謝礼
原告北田茂は、医師・看護婦に対する謝礼として金七万円を支出した旨主張し、同原告本人尋問の結果中にはこれに副う部分もあるが、相当額であるにもかかわらずこれを裏付ける証拠はないので、にわかに信用することはできず、他に右の主張事実を認めるに足りる証拠はない。
5 家政婦代
原告北田茂は、妻の原告北田正枝が前記のとおり入院したので、その間家政婦を雇う必要が生じ、これを雇つて金一五万二二〇〇円の費用を要したものであると主張するが、同原告の症状は、前記のとおり頸部痛だけで、入院することもなく通院して治療を受けていたものであるから、自己の身の回りのことまで自身でできなかつたものとまで認めることはできず、他に家政婦を雇わなければならなかつたことを認めるに足る証拠はないので、右は本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。
6 休業損害
原告北田茂本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第五号証によれば、同原告は、大正一五年八月六日生まれの本件事故当時五八歳の健康な男子で、警備員として勤務し、本件事故前の昭和六〇年三月には金一一万六七八〇円、同年四月には金一三万〇八四五円の給与を得ていたことが認められる。同原告は、右のほか、妻の原告北田正枝とともに写真及び文具店を営んで収入を得ていた旨主張し、成立に争いのない乙第一号証、第二号証の一ないし三、原告らの各本人尋問の結果によれば、右写真及び文具店の営業名義は原告北田茂となつており、同原告が右営業の仕事に一部当つていたことが認められるが、同原告が警備員として自己の職業をもつていたことは前記のとおりであり、前掲乙第一号証、原告らの各本人尋問の結果によれば、右営業を実際に行つていたのは原告北田正枝で、原告北田茂は家にいるときにその手伝いをしていたにすぎないことが認められる。してみれば、右営業は、原告北田正枝が営んでいたもので、原告北田茂がこれを手伝つていたのは、夫婦間の情誼に基づくものにすぎず、収入を生ずるようなものではなかつたというほかない。しかるところ、原告北田茂の症状の内容・程度・職業は前記のとおりであるから、同原告は、本件事故による傷害のため、本件事故の日である昭和六〇年五月一三日から昭和六一年三月二九日までの三二一日間、その労働能力に五〇パーセントの制限を受けたものと認めるのが相当であり、同原告の休業損害の額は、次の計算式のとおり、金一二八万二〇五八円と認められる。
(116,780+130,845)÷61×321×0.5=1,282,058
7 逸失利益
原告北田茂の後遺障害の内容・程度等は前記のとおりであるから、同原告の後遺障害による労働能力喪失率は五パーセント、労働能力喪失期間は一年間と認めるのが相当である。そして、同原告の本件事故前の収入は前記のとおりであるから、同原告が右の間に失うことになる収益の総額からホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して後遺障害による逸失利益の症状固定時における現価を算出すると、次の計算式のとおり、金七万〇五五一円となる。
(116,780+130,845)÷61×365×0.05×0.9523=70,551
8 慰謝料
原告北田茂が本件事故により被つた障害及び後遺障害の内容・程度その他本件において認められる諸般の事情に照らせば、同原告が本件事故により被つた精神的、肉体的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は、金一三〇万円と認めるのが相当である。
9 弁護士費用
弁論の全趣旨によれば、原告北田茂は、本訴の提起及び追行を弁護士である原告ら訴訟代理人に委任し、その費用及び報酬として相当額の支払を約したことが認められるところ、本件事案の内容、審理経過、認容額等諸般の事情に照らせば、このうち本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、金九万円と認めるのが相当である。
(原告北田正枝分)
1 治療費
同原告が前記博愛茨木病院に対する治療費として金一二九万六二三五円を要したことは当事者間に争いがない。
2 診断書料
弁論の全趣旨によれば、同原告は、診断書料(四通分)として金一万二〇〇〇円の支出をしたことが認められるところ、このうち本件事故と相当因果関係のある診断書料は金六〇〇〇円(二通分)と認められる。
3 入院雑費
同原告が四八日間入院して治療を受けたことは前記のとおりであるので、同原告は、その間、一日当たり金一三〇〇円、合計六万二四〇〇円の雑費を要したものと認められる。
4 通院交通費
弁論の全趣旨によれば、同原告は、前記博愛茨木病院への二二五日の通院中バスを利用し、一日当たり金三四〇円、合計七万六五〇〇円の費用を要したことが認められる。
5 休業損害
前掲乙第一号証、第二号証の一ないし三、第三号証及び原告北田正枝本人尋問の結果によれば、同原告は、昭和三年一月三日生まれの本件事故当時五七歳の健康な女子であつたことが認められ、同原告が前記写真及び文具店を経営していたことは前記認定のとおりである。そして右乙第二号証の一ないし三及び同原告本人尋問の結果によれば、同原告は、本件事故前一年間に右営業により金一六七万九八五九円の利益を得ていたことが認められ、これを左右するに足るだけの証拠は存在しない。しかるところ、同原告の症状の内容・程度、職業は前記のとおりであるから、同原告は、本件事故による傷害のため、昭和六〇年五月一三日から同年七月一八日までの六七日間は一〇〇パーセント、同月一九日から昭和六一年七月一〇日までの三五七日間は五〇パーセントその労働能力に制限を受けたものと認めるのが相当であり、同原告の休業損害の額は、次の計算式のとおり、金一一二万九八七八円と認められる。
1,679,859÷365×(67+357×0.5)=1,129,878
6 逸失利益
原告北田正枝の後遺障害の内容・程度等は前記のとおりであるから、同原告の後遺障害による労働能力喪失率は五パーセント、労働能力喪失期間は二年間と認めるのが相当である。そして、同原告が本件事故前に得ていた収益の額は前記のとおりであるから、同原告が右の間に失うことになる収益の総額からホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して後遺障害による逸失利益の症状固定時における現価を算出すると、次の計算式のとおり、金一五万六三四四円となる。
1,679,859×0.05×1.8614=156,344
7 慰謝料
原告北田正枝が本件事故により被つた傷害及び後遺障害の内容・程度その他本件において認められる諸般の事情に照らせば、同原告が本件事故により被つた精神的、肉体的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は、金一五〇万円と認めるのが相当である。
四 素因の寄与
原告らの頸椎にそれぞれ変性が認められることは前記認定のとおりであるが、成立に争いのない乙第七号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、原告らの右変性は、加齢現象に基づく比較的軽度のもので、いずれも年齢相応のものであることが認められる。してみれば、原告らの右変性を素因として斟酌し、原告らの損害額を減額するのは、公平に反し、相当ではないというべきである。
しかし、本件事故は、前記のとおりガソリンスタンド内での追突事故で、原告らには打撲傷や挫創などの外傷もなく、比較的軽微な事故であり、原告らの他覚的所見も、右にみたとおりレントゲン所見上認められる頸椎の変性は、年齢相応の程度を超えない比較的軽度のもので、自覚症状以外のその他の所見にもさしたるものがなかつたことは前記のとおりであるところ、原告らの治療期間が、これらの事情と必らずしも符号しないほど長期に及んでいることも前認定のとおりであり、そこに何らかの事情の存在が考えられる。しかるところ、成立に争いのない乙第四号証、前掲同第二号証の一ないし三、第七号証の一、二、原告北田茂本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告北田正枝が前記営業を営んでいた店舗兼居宅は、原告らの共有名義となつていたところ、右建物には、本件事故当時、訴外株式会社住宅総合センターのために債権額を金一九〇〇万円とする順位一番の抵当権が、訴外国民金融公庫のために債権額を金四〇〇万円とする順位二番の抵当権が、訴外大阪府中小企業信用保証協会のために債権極度額を金一二〇〇万円とする順位三番の根抵当権が設定されていたこと、原告北田正枝の営む前記営業は、昭和五九年一月一日現在の借入金は金五五〇万円にすぎなかつたのに、同年末には金一四〇〇万円にものぼり、同年分だけでも金一一〇万七五〇円の利子(売上総額は金九二二万一五三二円)を支払つていたこと、原告らの治療を担当した医師は、所見と症状が一致しない場合、神経症的要素が症状を悪化させ、症状が更に神経症を進行させ、これらの悪循環により症状が長く続くことがあるが、原告らについてもその例外であるとは思えないと弁護士法に基づく照会に対して回答していることが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。そして、原告らが夫婦で、ともに本件事故により受傷したことは前記のとおりである。これらの事実によれば、原告らは、もともと多額の負債を抱えていて、家業が順調に営まれておらず、これによる神経症的要素をもつていたものと認められるところ、本件事故によりこれが誘発、拡大されたものと推認するのが相当であり、民法七二二条二項を類推適用して、原告らの損害の二割を減額するのが相当である。
五 損害の填補
請求の原因5の事実は当事者間に争いがない。したがつて、原告北田正枝の被告らに対する各損害賠償債権は、すべて填補されたものである。
六 結論
以上の次第で、原告北田茂の本訴各請求は、三の同原告分の1ないし3、6ないし8の合計額から二割の寄与率減額をし、これから五の同原告の既払額を控除し、これに三の同原告分の9の弁護士費用を加えた金九七万〇一〇七円の損害賠償金及び弁護士費用を除く内金八八万〇一〇七円に対する不法行為の日ののちである昭和六一年五月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからいずれも認容し、同原告のその余の各請求及び原告北田正枝の各請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 山下滿)